レイフェルの知識増える 宿題『小説』
☆ レイフェル作
家の近くの森に向かって歩いていた。
今日は、町中のネコたちが集まる週に一回のネコ集会の日。
ヒトとネコの二つの顔を持つ私もこの集会に参加している。
私の部活は、不思議な人たちの集まりだったから、普通に許可をもらえている。
(顧問の先生にも理解をもらっている)
「これから、第256回ネコ集会を行う。」
長老の声で集会が始まる。
いつもより早く感じるのは気のせいではない。
「今日は紹介したい精霊がいる。」
前には、長老と、もう一人。
「ボクはルリラ。よろしくね、亜美ちゃん。」
目の前の手のひらサイズの少年はそう言って小さく笑う。
ゆったりとした白い服。光の具合で色合いを変える銀髪。
空色の瞳。うっすらとした不思議な光。
その全てに精霊という単語が当てはまる。
それよりも、
「え、私?」
「うん。というわけで、」
ルリラはにっこり笑ってこう言った。
「僕と一緒に世界を救って下さい!」
「はあ!?」
こうして私の非日常は始まったのだ。
☆ てって作 1
家の近くにある森に向かって歩いていた。
「なにこのありきたりな始まりかた」
薄暗い部屋にパソコンの淡い光。部屋を明るくしないで小説を書くのが僕は好きだった。トイレに行っている間に僕が書いている小説を読んだのか、彼女が不満そうにそんなことを言う。
これじゃあ駄目?
「これじゃあ駄目よ。全然面白くない。小説の始まりは面白くなきゃ駄目。始めの一文が面白くなくちゃ、読んですらもらえないよ。だけど、始めの一文が面白ければどんなに退屈でありきたりな話でも最後まで読んでもらえる。そういうものよ」
そうだろうか? ぼくは小説をこよなく愛する青年なのでどんな始まりだろうが最後まで読んでいるのだが、どうやら彼女は違うらしい。しかし、ベッドに横になりタオルケットにくるまり漫画を読みながら言っているあたり、もしかしたら難癖をつけたいだけなのかもしれない。最近は小説を書いてばかりだったので寂しい思いをさせてしまったのかもしれない。そうだったのか、だとしたら悪いことをした、可愛いやつだ。と思い静かに彼女の横に座る。
「そんなわけあるか」
けられた。あまりにびっくりして「ける」という漢字が頭に浮かばなかった。
人は人にけられるということが人生のうち一体どれだけあるだろうか? 子供のうちはあれど、大人になってからけられた事がある人は一体どれだけいるだろうか? 今日一日のうちで限定したらもっと少ないのではないだろうか? もしかしていないのでは? おお、だとしたら貴重な体験なのかもしれない。彼女に感謝しないと。ありがとう。二度とごめんだけど。
そう混乱していると、彼女は白いタオルケットを頭まですっぽりとかぶり、温泉街に出てくる儚げでお金を餌に食べてくる幽霊のような恰好のままベッドの上に立ち上がる。お気に入りの漫画なのか、先ほどまで読んでいた漫画は丁寧にしおりをはさんでベッドから避難させている。
飛び蹴りが来るのかと思い身構える。
「面白い小説が読みたいのよ」
だから早く作って。
朝ご飯をねだる子供のような、そんな顔をする。
僕は、幸せな小説家だった。
☆ てって作 2
僕は、家の近くの森に向かって歩いていた。
どうして? と聞かれたら、君に見せたいものがあるんだ、そう答えよう。君の左手を握りながら、僕はそんなことを考えて歩いていた。
出発する前、僕と彼女は喧嘩をした。いまとなってはもう理由が思い出せないが、些細なことだったように思う。もしかしたら、彼女はそう思っていないかもしれない。
足音がひとり分、こつこつこつと夜に響く。
街灯が減り、暗さが増え、森の端に着く。
子供の頃からよくここで一緒に遊んだこと、夏祭りをふたりで抜け出してこの森から花火を眺めたこと、家出した君をここで見つけ出したこと、いくつもの懐かしさが同時に着く。
君の左手を、少し強く握る。
夜のせいだろうか、とても冷たい。
なぜか、家から出る前に飲んだ氷水の冷たい心地よさを思い出した。
森に入り、花火を眺めた場所まで歩く。そこには古びた木製のベンチがひとつある。いつまでも朽ちないのは、誰かが手入れをしているからだろう。そこに座る。ひとりで見るここからの景色は、ふたりで見たときよりたしかに色あせていた。
後悔しながら、
そっと穴を掘る。